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水戸地方裁判所 昭和27年(行)50号 判決

原告 坂場己代寿

被告 茨城県知事

一、主  文

被告が茨城県東茨城郡石崎村大字中石崎字後沢一四二六番の二山林一反九畝五歩について、昭和二十二年十二月二日を買収期日としてなした買収処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

第一当事者の申立

原告訴訟代理人は「主文同旨」の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  請求の趣旨掲記の土地は、もと訴外藤枝祐次郎の所有であつたが、昭和二十二年四月七日原告(旧姓亀山)が同人より買い受け、その所有権を取得したものである。訴外石崎村農地委員会(以下村農委と略称する)は右土地について同年九月二十五日自作農創設特別措置法によりいわゆる未墾地買収計画を樹立し、買収期日を同年十二月二日とし、法定の縦覧期間を定めて即日公告した。被告知事は右計画に基き買収令書を発行し、これを原告に交付しようとしたが、原告が受領を拒んだので昭和二十四年二月二日茨城県報に公告して令書の交付にかえこれによつて買収処分をなした。

(二)  しかしながら右の買収処分は次の点において重大且つ明白な瑕疵を帯びた無効の行政処分である。即ち

(1) 原告は適法に村農委に対し右買収計画を不服とする異議申立をしたところ、村農委はそれに対し異議を却下する旨の議決をしたが、その決定書の謄本は原告に送達されなかつた。そもそも買収計画の異議に対する決定は申立人との関係においては決定書の謄本の送達をなして初めて効力を生ずるものであるから、本件においては決定の効力が生じないものである。それにもかかわらず、被告知事は前記買収計画に基き買収令書を発行し買収処分をなしたものでこれは明らかに違法である。

(2) 原告が昭和二十二年十一月四、五日頃異議却下になつたとの風聞により茨城県農業委員会に対しまさに訴願を提起せんとしていたのに対し、村農委委員長訴外海老沢芳郎が昭和二十三年三月三十一日までに本件土地を開墾すれば買収から除外されるから訴願を出さないようにと申し向け原告の訴願提起を阻止した。原告は右の言を信じ訴願を提出せず、右日時までに本件土地を開墾したのであるが前言に反して本件買収処分がなされるに至つたものである。これはまさしく村農委において原告の訴願提起を不当に抑止しておきながら被告において買収処分をなしたもので、かゝる処分は違法にして当然無効といわねばならない。

よつて本件買収処分の無効確認を求める。

二、被告の答弁

(一)  原告主張の(一)の事実は認める。

(二)  本件土地の買収処分が違法であるとの点は否認する。

原告主張の(1)については原告の本件買収計画に対する異議の申立は法定の異議申立期間経過後になされたものであり、且つ村農委はこれに対し昭和二十二年十月二十三日異議却下の決定をなし右決定書の謄本は同月二十八日原告に交付したものである。故に原告主張のような違法はない。

同(2)についてはその主張事実を否認する(立証省略)。

三、理  由

原告主張の請求原因事実中(一)については当事者間に争がない。そこで原告において被告のなした買収処分が違法であると主張する点について判断するに、

(二)の(1)については証人亀山忠の証言によつてその成立の認められる甲第四号証と証人亀山忠の証言及び原告本人尋問の結果を合せ考えれば、亀山忠は原告の依頼により昭和二十二年十月十一日附本件土地の買収計画に対する異議申立申請書(甲第四号証と同一内容のもの)を代書し、原告はその頃遅滞なくこれを村農委に提出したものであることが認められる。そうして本件土地の買収計画の公告は同年九月二十五日であることは当事者間に争のないところであるから、原告の異議申立は法定の異議申立期間である縦覧期間の二十日間のうちになされたもので、適法な異議申立といわねばならない。次に成立に争のない乙第二号証によれば村農委において同年十月二十三日「未墾地買収計画に対する異議決定について」との議案について議決がなされ、原告の異議についても却下の決定がなされたことがうかゞえる。しかしながら右決定書謄本の送達の点については被告は村農委が同月二十八日原告に対してなしたものであると主張するが、乙第四号証及び証人海老沢芳郎の証言をもつてしてはいまだこれを認めるに足らず、他の全証拠をもつてしても決定書の謄本が原告に送達されたことは勿論右謄本の作成されたことさえこれを認めることが出来ない。却つて原告本人尋問の結果によれば当時その送達がなかつたことが認められる。してみれば被告は本件買収計画に適法な異議申立があり、その決定書の謄本が原告に送達されていないにかゝわらず、買収令書を発行しその交付に代る公告をして買収処分をなしたものといわねばならぬ。しかして異議に対して決定をした時は市町村農地委員会は遅滞なく決定書の謄本を申立人に対して送付すべきであり、(自作農創設特別措置法施行規則第四条第一項)異議申立人との関係においては決定書の謄本の送達によつて初めてその効力を生ずるものであると同時に他面申立人は更に県農地委員会に訴願してこれが是正を求める機会が与えられるのである。そして右の決定に対し訴願の提起がないか又は訴願が提起されそれに対する裁決がなされた後にはじめて知事において買収処分をすることができるのであつて、異議に対する決定書の謄本が異議申立人に送達せられないうちに知事が買収処分をした場合にはその買収処分は訴願の途をとざしておきながら、訴願の提起がないものとしてなされたことに帰着し、違法の処分たるを免れない。このことは本件において原告が自陳するように異議申立人たる原告においてたまたま異議却下の議決がなされたことを聞知し、訴願提起の準備をしていた事実があつてもこれによつて右買収処分の瑕疵は何ら治癒されるわけのものではないのである。そして右のような手続上の瑕疵は買収処分を当然無効ならしめるような重大且つ明白な瑕疵に属するものと認めるを相当とする。それ故本件買収処分は当然無効であるから爾余の点につき判断するまでもなく、該処分の無効確認を求める原告の本訴請求はこれを正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 森松万英 高井清次)

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